鍼灸で健康維持・病気予防・病気治療ができるわけ

1本のハリ(針)、ひとつまみのもぐさ(艾)を用いる鍼灸がどうして健康維持、病気予防、病気治療ができるのか、不思議に思われる方が多いでしょう。それよりむしろ、そんなので効くはずがないと思っている方のほうが多いのではないでしょうか。

鍼灸の生体に及ぼす影響は大きく2つあります。

1つは人体を傷つけることですが、それはもちろん最小限にです。もう1つは生命力である正気を補い、また、病気のもとである邪気を排除することです。前者による効能は科学的に証明されていますが、後者のそれはまだ実証はされておらず、これからの科学に委ねられるところです。

先ずは科学的に証明されていることから解説します。

灸には大きく2つの方法があります。体表部を温める方法(温灸)と、火傷を与える方法です。後者には、Ⅰ~Ⅱ度の小火傷を生体に与える透熱灸と、Ⅲ~Ⅳ度の火傷をあたえる打膿灸(当治療所ではやってません)とがあります。

温灸は血液(気血)の流れを活発にしますので、自己防衛力や自己回復力が活発になり、その結果、病気予防、健康維持になります。同じように自然治癒力の発現を促しますから、病気治療にもなります。

透熱灸は、血液成分、リンパ液が増加し、活性化して自然治癒力である自己回復力、免疫力が高まり病気が治ります。また、血液成分(白血球、マクロファージなど)の活性化、血行増進により自己防衛力も強化されますから、病気予防、健康維持になります。

鍼は刺入深度により種々の効果を発揮します。

鍼を皮膚表面に接触、圧迫することで、皮膚表面にあるいろいろな知覚神経終末にある細胞(例えば痛覚)を刺激することによる効果がその1つです。
鍼を体内に刺入するとその深度により皮膚や筋肉組織を傷つけることがもう1つの効果です。
鍼の効果のメカニズムは専門用語が多くまた複雑なので省略しますが、神経連関を介することや、血液成分の増加と活性化を促進することにより自然治癒力の発現を促し病気を治します。また、自己防衛力、自己回復力が活発になりますから病気予防や健康維持にも役立つのです。

以上が、鍼灸によって健康維持から病気治療までが可能になる科学的な根拠です。

この場合、鍼灸共に生体を少し傷つけることが効果につながりますから、小火傷や皮膚、筋肉の小損傷は必要悪とは言え副作用とは言えません。従って、この点は鍼灸治療を受ける方に予めご承知おきいただきたいところです。

最近、このことを知らないで私の治療所を訪れたご婦人がいました。
手の運動時痛があったため、右小指(こゆび)の手首側に透熱灸をしたところ『水ぶくれ(Ⅱ度の火傷)ができた』との連絡がありました。『治療ではそういうこともあるから大丈夫です』と言いましたが、『皮膚科で処置をしてもらう』と言われました。
そこで、『その前に水ぶくれがつぶれないように保護をしておいて、今度来た時に見せてください』と返答しました。
1週間後に診ると、化膿もせず体液は吸収され茶褐色の跡が残っているだけになっていました。

この出来事を機に、さらに鍼灸にまつわることを一般の人に伝える必要性を感じました。

「鍼灸で健康維持・病気予防・病気治療ができるわけ」のもう1つの根拠である気については次回に載せる予定です。